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アジアで言語学徒

アジアの言語学、文字学が楽しすぎる✌︎('ω'✌︎ )

迷訳集(1) 柴田元幸訳「バナナフィッシュ日和」

サリンジャーナイン・ストーリーズが好きで、柴田元幸訳と野崎孝訳を原文と比較して読んでたんですけど、柴田訳で結構 え?(...)という箇所があったのでナイン・ストーリーズ(Nine Stories)からA Perfect Day for Bananafishという短編の翻訳を比較してみました。

 

迷訳その1 イディオム?

本文34-35行目に以下のような文が出てきます。

"Muriel? Is that you?"

The girl turned the receiver slightly away from her ear.

野崎訳はこうです(26-27行目)。

「ミュリエル?あなただわね?」

彼女は受話器を少し耳から遠ざけるように動かしながら(...)

柴田訳(23-24行目)。

「ミュリエル?あんたなの?」

女の子は受話器をわずかに回して耳から話した。

この箇所の'turned...away'は野澤訳にあるように'遠ざけるように動かす'ですよね。'回して'ないし本文の"away"はどこ行った?

 

柴田訳には以上のような基本的なイディオムを誤訳(?)したような箇所が見受けられます。

本文279行。

"What's new?"

"What?" said Sybil.

"What's new? What's on the program?"

このイディオム "What's new?"は野崎訳(216-218行目)では

「何かニュースは?」

「なあに?」とシビルは言った。

「ニュースは?どんな予定?」

近況を聞く時に使うイディオムとして訳されてます。

問題の柴田訳(235-237行)では

「何か新しいものある?」

「ええ?」と、シビルは言った。

「何か新しいものさ。プログラムに何か出てない?」

基本的なイディオム知らなかったのかな?とつい思ってしまう直訳です。

 

迷訳その2 創作?

創作して行間埋めたのかな?という箇所あります。

本文110-112行。

"He told him everything. (...) Those horrible things he said to Granny about her plans for passing away. (...)"

野崎訳(93-95行)では

「何もかもみんな話したんですって。(...)それからおばあちゃまに向ってあの人がひどいことを言った話も。ほら、おばあちゃまが、亡くなるときにはああしてこうしてって、いろんな計画を立ててたのに、あの人ひどいことを言ったじゃない?(...)」

原文から文章量を増やして、原文の意味を完璧に訳してます。

ところが柴田訳(84-87行)。

「先生に何もかも話したのよ。(...) おばあちゃまにいつ亡くなるつもりですかって訊いたあのひどい話も。

"her plans for passing away" を「おばあちゃま」の「亡くなるときはああしてこうしてって、いろんな計画 (野崎訳)」ではなくて「いつ亡くなるつもり (柴田訳)」と訳す。すごいオリジナリティ。

 

(追記します。)

 

野崎訳と柴田訳のアマゾンの評価が同点くらいなんですね。味があるのかな....。

Salinger (原文): 

https://www.amazon.co.jp/Nine-Stories-J-D-Salinger/dp/0316767727/ref=tmm_pap_title_0?_encoding=UTF8&qid=&sr=

野崎孝訳: 

https://www.amazon.co.jp/ナイン・ストーリーズ-新潮文庫-サリンジャー/dp/4102057013

柴田元幸訳: 

https://www.amazon.co.jp/ナイン・ストーリーズ-J-D-サリンジャー/dp/4863320507