アジアで言語学徒

アジアの言語学、文字学が楽しすぎる✌︎('ω'✌︎ )

中国語 (1) ドラマチック異類婚姻譚 任氏伝

国語学習で一番大変なのは, 語彙を増やすことだと思います. 中高時代から嫌々培ってきた漢文読解力を生かさない手はないと思うんですが, 身近であまり実践している人をみないので, 面白い漢文を紹介します. どのくらい返り点等なしで読めるか挑戦してみてください.

 

(1) 任氏伝

猫娘ならぬ狐娘が鄭六という残念男に尽くしまくる異類婚姻譚. 唐代に沈既済(しん きせい; 750-800年頃)によって書かれた悲劇です. 出だしからこうです.

任氏,女妖也。(唐人小説校釋 上冊, p.41)

任(れん)氏という者は、女の妖であった。

 

鄭六は飲み会にロバで向かう道中, 美しい女が前方を歩いているのを見かけます. 以下ナンパの様子.

鄭子戲之曰:“美艷若此,而徒行,何也?”白衣笑曰:“有乘不解相假,不徒行何為?”鄭子曰:“劣乘不足以代佳人之步,今輒以相奉。”(唐人小説校釋 上冊, p.42)

鄭は冗談まじりに声をかけた。「こんな美人が、いったいどうして徒歩で旅をされているのですか。」白い服の女は笑って言った。「足のあるひとがだれも貸してくださらないんですから、自分で歩かなくてどうするというんですか。」鄭は答えた。「自分の粗末な乗り物が美人のおみ足の代わりに足るかわかりませんが、お乗りください。自分はお供が出来れば結構です。」

 

怒涛の勢いで続く謎に活き活きした描写が中高時代に読んだ漢文を全く彷彿とさせません. 以下は一旦鄭六と親しくなった任氏が, 妖である自分を恥じ, 鄭六の前から姿を消した数日後, 市場で鄭六が任を見かけ, 追いかけ問いただす場面.

經十許日,鄭子游入西市衣肆瞥然見之,曩女奴從。鄭子遽呼之,任氏側身週旋于稠人中以避焉。(唐人小説校釋 上冊, p.42)

それから十日あまりが経った。鄭が西の市場をぶらついていると、任氏らしい者の姿が目に入った。侍女も従えていた。鄭はあわてて声をかけたが、任氏は身を翻し、人ごみに紛れようとした。

 

鄭子連呼前迫,方背立,以扇障其後曰:“公知之,何相近焉?” 鄭子曰:“雖知之,何患?”對曰:“事可愧恥,難施面目。”(唐人小説校釋 上冊, p.42)

鄭が任の名を連呼しながら追いかけると、任氏は扇でその顔を隠して言った。「もう私の正体に気付いているのでしょう。なぜ追いかけるのですか。」「気づいていたら、なんなんだ。」「ただ恥ずかしくて、面目ないのです。」

 

鄭子曰:“勤想如是,忍相棄乎?”對曰:“安敢棄也,懼公之見惡耳。”鄭子發誓,詞旨益切。任氏乃回眸去扇,光彩艷麗如初。謂鄭子曰:“人間如某之比者非一,公自不識耳,無獨怪也。” 鄭子請之與敘歡。對曰:“凡某之流,為人惡忌者,非他,為其傷人耳。某則不然。若 公未見惡,願終己以奉巾櫛。”(唐人小説校釋 上冊, p.42)

鄭は言った。「こんなに思いあげているのに、なぜそんなにつれないのですか。」「そんなことはありません。ただあなたに嫌われたくないだけなのです。」鄭はそんなことは決してないと誓って言った。任氏はやっと、扇を下ろしその顔を見せた。そのまばゆいばかりの艶やかさは以前のとおりであった。「この世にわたしのような存在は一人ばかりではありません。皆ただ気付かないだけです。騙そうとしたわけではありません。」鄭は任氏と一緒になりたいと請うた。「わたしのような者たちの中には、人様を傷つけ、嫌われる者もいます。私は決してそんなことはしません。もしあなたがまだわたしを信じてくれるというのなら、一生添い遂げたいと思います。」

 

このあと, 任ちゃんは悪漢に襲われそうになったりいろいろあって, 悲劇的な運命をたどります. 次回 (2) 狐 vs 犬.

この疾走感、漫画感、13世紀前の小説とは思えませんね.

中国語で現代文の文章を読める, 中級以上になるとびっくりするくらい読めるので, 漢文おすすめです.

 

参考文献

王夢鷗, 1983, 唐人小説校釋 上冊. 正中書局. 流傳文化. 墨文堂文化.